人材のプロが語る
海外進出に必要なスキルとは
“人種のるつぼ”で培われた
言語スキルとコミュニケーション術
ジョブストリート・ドットコムは、マレーシア本社のほかシンガポール、インド、フィリピンなどに拠点を持つ、約5 万社の求人情報数、450万人超の登録者数を誇る東南アジア最大規模のインターネット求人サイトだ。世界各国はもちろん日本企業に向けても、世界中の顧客やベンダーとのビジネスに対応できるバイリンガル、トリリンガル能力を備えた優秀なエンジニアの採用支援・紹介・派遣を行っている。人材の分野に関しても、ファーム・組込技術者を中心に、データベース・ERP(Oracle、SAP)、ハード技術者(エレクトロニクス・機械設計・金属・化学他)、サービスエンジニアまで多岐にわたる。また、採用から行政手続き、住居や生活支援までをワンストップで実施しているのも特徴だ。
ジョブストリート株式会社の代表取締役を務める菱垣雄介氏は、明治大学農学部を卒業後、農林水産省で徳之島の開拓建設事業などを手がけた経歴を持つ人物だ。農林水産省に5 年間勤務した後、カナダ モントリオールのマックギル大学農業経済学科で修士号を取得したが、ここでの経験が菱垣氏の人生に大きな影響を与えているという。
カナダのケベック州は、フランスの入植やイギリスによる占領、さらにはヨーロッパやアジアなど世界各国からの移民を多く受け入れた歴史を持つため、さまざまな人種の人々が暮らしている地域だ。その中にある人口300 万人以上の大都市モントリオールはビジネス拠点にもなっており、世界中のありとあらゆる事情が集約された都市といえる。菱垣氏はモントリオールについて「人種が混ざりすぎているため、誰も文化や国籍の違いを気にしない土地です。大抵の人がフランス語と英語を話せるので、コミュニケーションも問題ありません。ニューヨークは“人種のるつぼ” ではなく“ モザイク” だという話もありますが、多人種が複雑に混ざり合ったモントリオールはまさに“人種のるつぼ”という表現がピッタリの都市といえるでしょう」と語る。菱垣氏はマックギル大学農業経済学科で修士号を取得後に「国連農業開発基金(I FAD)」、「国連世界食料農業機関(FAO)」、「世界銀行国連開発計画(UNDP)」などの国連機関と直接契約を交わしコンサルティング業務を行ってきたが、モントリオールで培われた言語スキルと異文化コミュニケーション術が大いに役立っているそうだ。日本ではグローバル企業という看板を掲げていても、実際にはまだまだ外国人に違和感を感じたり、差別的な見方をするところが多い。まずはこのような意識を払拭することが、海外進出を図る日本企業に求められる部分ではないだろうか。
人材選択の幅を狭める
日本語でのコミュニケーション
さらに、英語に対して苦手意識を持つ日本人が多いことも大きな問題だ。菱垣氏は海外でのマネジメントについて「どのような人材を採用するか、これが8 割の要素を占めます。人材の持つ能力はもちろん、善人かどうかの判断が非常に重要です」と語る。この判断には相手とのコミュニケーションが必要不可欠だが、共通言語である英語が話せなければ細かいニュアンスなどの見極めは行えない。また、日本語が話せる現地スタッフを積極的に採用する企業も多いが、そうした場合は選択の幅が一気に狭くなってしまうのである。菱垣氏が「ジョブストリート登録者の中でも日本語を習得しているのはわずか0.01%程度しかいません」と語るように、このような小さな母集団から選んでも意味がなく、かえって有能な人材を見過ごすことになりかねない。逆に、日本人が英語でのコミュニケーションを苦にしなければ選択肢が増え、企業にとって圧倒的に有利な人材が揃えられるのである。
こうしたことから、ジョブストリートでは採用条件としてスキルだけでなく英語レベルの高さを重視しているが、もちろん日本企業のニーズに合わせて日本語の習得も実施している。エンジニアたちは全寮制のトレーニングセンター(ブートキャンプと呼ばれる)により、わずか3カ月という短期間で日本語をマスターするというのだ。ここでの授業は一人の講師が多人数に教える方式ではなく、公文式などの教材を用いてマンツーマンに近い少人数制で徹底的に理解を深めていくというもの。こうした短期での日本語習得は、教える側の能力に加えてエンジニア側の高い意欲と学習能力があってこその成果といえるだろう。
ジョブストリート社の象徴ともいえるポスター