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2009年5月1日 【カンボジア】
プノンペン経済特区-これまでの進捗とこれからの課題

プノンペン経済特区マネージングディレクター
上松 裕士


世最初に

 「カンボジア」という国は、まだ一度も来たことがない方にとっては、「ポルポト」、「地雷」、「最貧国」など負のイメージが、どうしてもつきまといます。しかし、一度プノンペンに来られると、大半の方々は、そのイメージとは裏腹に、急速に発展を続ける街の活気に目を奪われ、意外と治安が良いのに安心し、かつて「東洋のパリ」と言われた面影を残す予想外の緑豊かな公園と洒落た店の数々に感心して、帰って行かれます。

  経済面を見ると、内戦の復興時代を既に終え、フンセン首相の長期政権のもとで、経済開放政策を推進し、過去10年、平均9.4%の高度経済成長を続けています。そのような流れの中、さらなる外国投資の促進と雇用創出の政策として、2005年12月に経済特区政令が発布されました。

  現在21ヶ所で開発許認可が出ているカンボジアの経済特区の中で、プノンペン経済特区(Phnom Penh Special Economic Zone, PPSEZ)は、首都プノンペン近郊で唯一の経済特区です。



これまでの進捗
PPSEZの位置


 PPSEZは、メコン川にあるプノンペン港には約18km(車で一時間以内)、プノンペン国際空港へは約8km(15分程)、またプノンペンとカンボジア随一の港があるシアヌークヴィルを結ぶ国道4号線に面しています(4時間程)。さらに、PPSEZの東側にはプノンペンとシアヌークヴィルとを結ぶ鉄道が敷かれており、内戦後ほぼ機能が停止している鉄道の復旧事業(アジア開発銀行による融資)が進めば、PPSEZからシアヌークヴィル港への鉄道による貨物輸送も可能になります。



インフラとサービス

 PPSEZの総面積は360ha、第一期141ha、第二期162ha、第三期57haに分かれています。第一期のインフラ工事は既に完成、独自の発電所、上下水道施設、通信施設を稼動させています。また、ドライポートでは、入居企業の物流をサポートすべく、コンテナトラック、倉庫等を完備しています。

  一方、昨年9月から経済特区特有のサービスである、いわゆる「ワンストップサービスセンター」が稼働しており、政府からカンボジア開発評議会(CDC)、関税局、労働省、商業省の担当官が常勤しています。ここで、投資申請、輸出入申請、通関手続き、原産地証明書発行、労働許可申請を、行うことが出来ます。

  さらに工場ワーカーが集まりやすいように、ドミトリーやキャンティーン施設も順次、用意していきます。



入居企業の状況

 下記の表の通り、合計9社がCDCより投資認可を取得しています。国別で見ると、日本2社、台湾3社、マレーシア2社、シンガポール1社、韓国1社です。業種は、輸出加工型産業は、縫製と革靴、裾野産業としてダンボール、アパレルアクセサリー、ハンガー、国内市場向産業は、ワイヤーメッシュ、プラスチック容器、砂糖パッキング、そしてモーターバイク組立と類別出来ます。





 

これからの課題
顧客サービスの徹底


  カンボジア人のスタッフと接していて感じたことは、総じて正直で従順な性質を持っていることです。ミスをしても素直に謝る傾向にあるので、日本人の道徳観と通じるところもあるかと、思います。一方、「顧客にサービスを提供する」という観念に乏しく、高学歴のエリートスタッフほど、部下のスタッフにだけでなく、(本人にはその自覚はないのでしょうが)お客様にも横柄な態度をとるケースが見受けられました。


  したがって、入居を決めた企業が、長く操業をしてもらうためには、顧客の満足度を高めることが必須と考え、「顧客サービス」の精神を社内に浸透させ、実践に移すことが、重要課題と考えました。


  現在、スタッフに様々な研修の機会を与え、また、日本人、シンガポール人、韓国人スタッフが様々な機会で、カンボジア人スタッフにノウハウを伝授する努力を積み重ねています。



企業価値・信用力の向上

  PPSEZの開発は、もともとカンボジア有数の華僑系企業家、Attwood Investment GroupのMadam Lim Chhiv Ho(林秋好女史)が許認可を取得し、日本の民間開発コンサルタント会社、日本開発政策研究所により、マスタープランが描かれ、東京に本社がある不動産デべロッパー、(株)ゼファーが日本側株主として、投資するという事業体制で始まりました。ところが、ゼファーが昨年7月に民事再生法適用を申請し、このPPSEZ開発事業から撤退することになりました。現在、持分売却の手続き中で、新たな外国資本の経営参画を予定しています。


  また、経営の国際標準化のために、今年中にISO9001と14001の取得を目指します。さらに、近い開設される予定のカンボジア株式市場へのIPOを視野に経営体制の整備を進めています。







最後に

  カンボジアは、読者の皆様もご承知の通り、1970年代後半のポルポト政権時代に、100万とも200万とも言われる特に知識人を中心とした大虐殺が、行われた極めて悲惨な歴史を持つ国です。現地パートナーのMadam Limも、兄弟姉妹がクメールルージュ兵士に殺された中、奇跡的に助かって、漁業で生計を立てることから始めて、今の富と地位を築いた方です。


  このような過去に思いを巡らせると、PPSEZの成功を通して、カンボジア人が暗い悲しい過去を乗り越え、豊かな伝統を持つカンボジア王国の繁栄に多少なりとも貢献することが出来るのではないかと、思うのです。そして、どのような困難をも乗り越えるために、日々努力を怠ってはいけないと、謙虚に自省する機会を与えてくれます。


  どうか皆様も、是非一度、カンボジアにお越しいただき、日本とカンボジアの関係を深めるビジネスの可能性を探っていただければ、うれしく思います。
 


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