アジアブログ

 

 
 

2011年4月25日 【ベトナム】
仕事スキル

Brain Works Asia co.,Ltd
田口 秀一

前回、「思い込み」をテーマにベトナムの事例を挙げて書いた。
これを読んだ方の中には、主旨である「思い込み」とは別の問題として、
ベトナム人とビジネスをすることに不安を覚えた方も多いのではないだろうか。


日本では、ベトナム人はまじめで勤勉、親日的・・・と、
日本人が飛びつきたくなるような人物像で表現されている。
では、ベトナム人と仕事をして、大した苦労もなく
成功したという話をどれだけ耳にするか。まず聞かないだろう。
むしろ、トラブルや苦労話を聞く方が多いはずだ。


なぜなのだろうか。
そもそも違う国の人たちなので、文化や風習が違うのは当然だ。
そんなことは、これを読んでいる皆さんも十分にお分かりのことだろう。
では、何が問題なのか。


原因はもちろんひとつではないが、私が感じることとして、
日本在住の日本人のほとんどの方は意外に、
ベトナムがまだまだ発展途上の国であるということを
きちんと理解していないからではないかと思う。


「そんなわけがない。そんなことは百も承知だ」とおっしゃるかもしれないが、
私はこれまでの経験を踏まえても、そう思うのだ。
今まで日本国内の取引先としか仕事をしたことがない方はおおむね、成果物や過程での対応、
トラブル時の対応など様々な面で、日本と同等の水準を最初から期待している。
そして思い通りにいかないと、なぜできないんだ、となる。


しかし、実際に現地を見たり、実際に自分自身が現地スタッフと共に仕事をしてみると、
そこで初めて、ここは新興国だったのだということを本当の意味で理解される。
新興国は経済だけでなく、ビジネス等の様々な面でも発展過程にある。


そこで今回は、ごく一般的なベトナム人スタッフの仕事スキルについて触れたい。
もちろん、全部は書ききれないので、まずはごく基本的な点についてである。


念を押しておくが、ここで書くのは、ごく一般的なベトナム人スタッフの仕事スキルである。
全員がこれに当てはまるとは限らない。日本人と比べても優秀な人もいれば、
ここに書く以下の人も当然いるという前提で読んでほしい。


私はベトナム拠点における人事・採用の担当もしている。
そのため、面接も数多くしてきたし、採用後の人事対応、
現場での指導等も様々な場面で行ってきた。
そんな中でスタッフのスキルを評価する際に重要視するのは、
何も変わったことではなく、やはりごくごく基本的なことである。


私がベトナム人スタッフの仕事スキルを計る際、まず見ているのが、
メモを取るかどうかである。はっきり言って、入社した当初から、
何も指導しない段階でメモをきちんと取るスタッフは、皆無に近い。
多くのスタッフは、その場で「はい」と返事をするものの、手ぶらで頷くだけである。
こんなに覚え切れるのかと、こちらが心配するくらい長い指示をしても、
全くメモを取るそぶりは見せない。


その結果、どういうことが起きるのかは、皆さんが想像されるとおりである。
忘れてました、聞いてません、勘違いしました、などなどトラブルが頻発するのだ。
そして、それ以上に問題なのが、そんな状態であるにも関わらず、当の本人が
それを全く問題だと感じていないことである。本人はこれを、単なるミスや事故であり、
自らの仕事の仕方に問題があったとは考えないのである。
そこで、まずはメモを取ることの指導から始まる。


次に見るのは、報告レベルである。
何かを指示し、その結果を報告する際に、どのように報告されるかを見るのである。
そしてその第一歩は、報告があるかどうか、というレベルから始まる。
基本的に、こちらから結果を聞きにいかないと、自ら報告してこない。


例えば、何か調べごとを依頼した場合、
調べ終わったら、そのまま他のことを始めてしまい、聞かれるまで待っている。
何かの都合で調べられなかった場合、何も進んでいないので報告がない。
結局、どちらであっても報告はないのである。


簡単なメモでも、自ら報告してくるスタッフは良いほうだ。
ただ、そんなスタッフでもメモを置いて終わりであり、後で顔を合わせても、
こちらがメモを確認したかどうか、報告結果についてどうであったか、などの確認はまずない。
至急で指示した事項でもそんな状態なので、トラブルが絶えない。


書類作成も、本人の仕事スキルを計る際にわかりやすいもののひとつである。
例えば、皆さんが部下に企業調査を指示したとする。その結果を報告するための
書類作成として、どのようなものを期待するだろうか。


特に変わったものは必要ないはずだ。
タイトル、調査実施日、調査担当者、公開範囲、
調査結果の文章や表などがあれば、だいたいは事足りるだろう。
しかし、この段階から問題が発生してしまうのである。


驚くべきことに、タイトルや調査実施日、担当者どころか、調査結果の一覧表の
列タイトル(項番、企業名、創業年、社員数、・・・など)すらない、データの羅列だけが
提出されるのだ。つまり、どの列が企業名で、どの列が社員数かなどの記載が一切なく、
○○会社、2005年、28人、・・・などのデータだけが記載された一覧表が提出されるのだ。


自分がわかるのだから、他の人も見ればわかる、と思っているのだ。
確かにおおむねは分かる。しかし、誤解も生まれるし、明らかに聞かなければ意味不明な
内容もあるのだ。本人に指摘すると、「わかりませんか?」などと、
きょとんとした顔で質問してくる。本人に手抜きをしたつもりはない。
資料作成の際に本来あるべき当然の基準を理解できておらず、
また資料を見る立場の人のことまで考えが及んでいないのだ。


さらに付け加えれば、データでやり取りする場合、印刷時のことまで気が回っていない。
ベトナム人の部下が作成した書類をプレビューしてみると、ほとんどの場合、
ページからはみ出しており、用紙の向きや印刷時の倍率を変更しなければならない。
上司がどのようにそれを使うかがわかっていないのだ。


顧客に提出するために見積書と注文書の印刷を指示したら、
これらをホチキス留めして提出してきたスタッフもいた。


前回も述べたが、これらは入社したての新人の話ではない。
社会人として何年も経験を積んだスタッフでもそうなのである。
他の仕事スキルがどうであるかは、推して知るべきだ。


ベトナム企業から転職してきたスタッフは、当然のように、これらを理解していない。
また、日系企業から転職してきたスタッフでも、理解していないことも多い。


実際、こんなことを指導するのは時間も労力もかかるし、根気が必要だ。
日系企業では、教えても、すぐにまた転職してしまうから、という声をよく聞く。


このように、現地でベトナム人を使って仕事をするというのは、決して楽ではない。
「中途半端な心構えではベトナムで事業を継続するのは無理である」というのは、
ある程度ベトナムでビジネス活動をされた方の共通意見であろう。


オフショアでコストダウン、というのはよく聞く話で聞こえもが、日本と同じレベルの
ビジネス環境やスキルを求めてはいけない。仕事を委託する側やベトナム人を使う
管理者にも、ベトナム人との対応やベトナムという国でのビジネスに本気で取り組み、
根気よくやっていく覚悟が必要なのだ。



 




 


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